業績

業績のご紹介

2024年

論文発表

(2) Sasaki H, Nakagawa I, Furuta T, Yokoyama S, Morisaki Y, Saito Y, Nakase H (2024)

Mitochondrial calcium uniporter (MCU) is involved in an ischemic postconditioning effect against ischemic reperfusion brain injury in mice.
Cellular and Molecular Neurobiology 3;44(1):32, 2024
https://doi: 10.1007/s10571-024-01464-7.

虚血性ポストコンディショニング(PostC) の現象は、虚血性再灌流時の損傷に対する神経保護であることが知られている。
本研究では、ミトコンドリア内膜に存在するカルシウムイオン(Ca2+)のトランスポーターであるミトコンドリアカルシウムユニポーター (MCU) のPostCへの関与について検討した。
マウスの海馬CA1錐体細胞からホールセル記録を行い、MCUの阻害薬であるルテニウムレッド265を投与すると、再灌流後の自発EPSC頻度、NMDA受容体を介する電流、細胞内Ca2+濃度、および死細胞数が有意に増加し、PostCによる神経保護効果が減弱した。
これらの結果から、MCUがPostCのミトコンドリア脱分極に影響を及ぼし、NMDA受容体の過剰活性化を抑制することで再灌流時傷害に関わる細胞内Ca2+濃度の上昇を防ぐことを示唆された。
この研究の詳細は、本学の脳神経外科学講座の中川先生にお問い合わせください。

(1) Takada R, Toritsuka M, Yamauchi T, Ishida R, Kayashima Y, Nishi Y, Ishikawa M, Yamamuro K, Ikehara M, Komori T, Noriyama Y, Kamikawa K, Saito Y, Hideyuki Okano H, Makinodan M (2024)

Granulocyte macrophage colony-stimulating factor induced macrophages of individuals with autism spectrum disorder adversely affect neuronal dendrites through the secretion of pro-inflammatory cytokines.
Molecular Autism 21;15(1):10, 2024
https://doi: 10.1186/s13229-024-00589-2.

自閉症スペクトラム障害(ASD)などで見られる神経発達障害は末梢組織や中枢神経系の免疫機能障害や炎症との関連が示唆されており、炎症性サイトカインの発現レベルはASDの行動障害および症状の重症度と関連している。
本研究では、ASD患者の末梢血単核細胞から得られたヒト人工多能性幹細胞由来ニューロンと分化マクロファージの共培養系を用いることで、マクロファージがヒトの神経細胞に及ぼす影響を調べた。
その結果、マクロファージが炎症性サイトカインであるインターロイキン-1αお よびTNF-αの分泌を介してニューロンの樹状突起伸長に影響を与えることが示された。
また、ASD患者に由来するマクロファージは、定型発達がみられたヒトに由来するマクロファージよりも神経細胞へ影響が深刻であった。
この成果はASDの免疫機能障害仮説を支持するとともに、その病態に関する新たな知見を提供するものである。
この研究の詳細は本学の精神医学講座にお問い合わせください。

学会発表

杉村岳俊、齋藤康彦

小脳虫部や半球部に投射するラット舌下神経前位核の特徴的なニューロン群
第46回日本神経科学大会 2023年8月2日

法山勇樹、山室和彦、池原実伸、齋藤康彦、牧之段学

精神疾患モデルマウスにおける内側前頭皮質への脳深部刺激によるさまざまな精神症状への効果
第46回日本神経科学大会 2023年8月2日

池原実伸、山室和彦、法山勇樹、岡村和哉、杉村岳俊、西真弓、齋藤康彦、牧之段学

自閉スペクトラム症に対する薬物治療の可能性 ~ BTBRマウスの内側前頭前野における電気生理学的変化と自閉症関連行動の改善~
第46回日本神経科学大会 2023年8月1日

杉村岳俊、齋藤康彦

カハール間質核から前庭小脳への間接的な神経経路
日本生理学会100回記念大会 2023年3月14日~16日

池原実伸, 山室和彦, 法山勇樹, 齋藤康彦, 牧之段学

マウスにおける前頭葉局所回路へのニューロモデュレーションの効果と関連行動
日本生理学会100回記念大会 2023年3月14日~16日

2023年

論文発表

(2) Okamura K, Yoshino H, Ogawa Y, Yamamuro K, Kimoto S, Yamaguchi Y, Nishihata Y, Ikehara M, Makinodan M, Saito Y, Kishimoto T(2023)

Juvenile social isolation immediately affects the synaptic activity and firing property of fast-spiking parvalbumin-expressing interneuron subtype in mouse medial prefrontal cortex.
Cerebral Cortex 33: 3591-3606, 2023. 2023
https://doi.org/10.1093/cercor/bhac294

若年時の社会的経験の欠如はさまざまな行動障害や脳機能(特に内側前頭前野 (mPFC))の障害を引き起こす。
これまでの研究から、マウスを生後21日から35日まで隔離飼育すると、生後65日目の成熟ラットの mPFCの5層にある特定の錐体細胞(PH錐体細胞)やパルブアルブミン陽性介在ニューロン(FSPV介在ニューロン)の活動様式やシナプス入力に影響を与えることが明らかになった。
本研究では生後35日目マウスを用いて、上記のニューロンからホールセル記録を行い、隔離飼育直後にみられる変化の様子を調べた。
FSPV介在ニューロンの興奮性入力は、隔離飼育直後に増加することが観察された。
また、隔離飼育は介在ニューロンの発火反応を増加させるが、錐体細胞での効果は部分的であった。
これらの結果から、幼若時の社会的孤立によって、主にFSPV介在ニューロンを含む神経回路の発達的再構築が妨害され、その結果、成熟期におけるPH錐体細胞を含む神経回路も影響を受けることが示唆された。
この研究の詳細は、本学精神医学講座にお問い合わせください。

1) Saito Y, Sugimura T (2023)

Serotonergic current responses of neurons in rat oculomotor neural integrators.
Journal of Neurophysiology 129: 399-409, 2023
https://doi: 10.1152/jn.00452.2022

脳幹の舌下神経前位核(PHN)とカハール間質核(INC)はそれぞれ水平性、垂直性の視線制御に関与している。
PHNやINCへはセロトニン(5-HT)などのモノアミン作動性投射がみられるが、どのタイプのニューロンに5-HTがどのように作用するのかはわかっていない。
本研究では、5-HTによる修飾機構を明らかにするため、スライスパッチクランプ法を用いて、PHNやINCのニューロン間で5-HT受容体を介した電流応答の違いを調べた。
トランスジェニックラット(VGAT-VenusラットとChAT-tdTomatoラット)を用いて蛍光顕微鏡下でGABA/グリシン作動性、コリン作動性、グルタミン作動性ニューロンを同定し、それらのニューロンへ5-HTを局所投与したところ、(1)速い内向き電流、(2)遅い内向き電流、(3)遅い外向き電流の3種類のいずれかの電流応答が観察された。
薬理学的解析の結果、(1)の電流はイオンチャネル共役型受容体の5-HT3受容体を介する応答、(2)と(3)の電流はそれぞれ代謝型受容体である5-HT2受容体と5-HT1A受容体を介する応答であった。
(1)の電流はこれまで報告がなく、本研究により初めて明らかにされた。
ニューロンの種類との関係については、PHNではGABA/グリシン作動性は他のニューロンに比べ速い内向き電流の割合が高く、グルタミン酸作動性は遅い電流応答を示す割合が高かった。
一方、INCではGABA/グリシン作動性は速い内向き電流の割合は低く、遅い外向き電流の割合が高かった。 以上の結果から、5-HTに対する電流応答は異なる神経伝達物質をもつニューロン間で異なっており、さらに、視線制御におけるセロトニンの神経修飾は水平性と垂直性で異なることが示唆された。

学会発表

杉村岳俊、齋藤康彦

小脳虫部や半球部に投射するラット舌下神経前位核の特徴的なニューロン群
第46回日本神経科学大会 2023年8月2日

法山勇樹、山室和彦、池原実伸、齋藤康彦、牧之段学

精神疾患モデルマウスにおける内側前頭皮質への脳深部刺激によるさまざまな精神症状への効果
第46回日本神経科学大会 2023年8月2日

池原実伸、山室和彦、法山勇樹、岡村和哉、杉村岳俊、西真弓、齋藤康彦、牧之段学

自閉スペクトラム症に対する薬物治療の可能性 ~ BTBRマウスの内側前頭前野における電気生理学的変化と自閉症関連行動の改善~
第46回日本神経科学大会 2023年8月1日

杉村岳俊、齋藤康彦

カハール間質核から前庭小脳への間接的な神経経路
日本生理学会100回記念大会 2023年3月14日~16日

池原実伸, 山室和彦, 法山勇樹, 齋藤康彦, 牧之段学

マウスにおける前頭葉局所回路へのニューロモデュレーションの効果と関連行動
日本生理学会100回記念大会 2023年3月14日~16日

2022年

論文発表

(3)Sugawara S, Nakaya Y, Matsumura S, Hirose K, Saito Y, Kaneko Y, Kobayashi M (2022)

Neural Subtype-dependent Cholinergic Modulation of Neural Activities by Activation of Muscarinic 2 Receptors and G Protein-activated Inwardly Rectifying Potassium Channel in Rat Periaqueductal Gray Neurons.
Neuroscience 506: 1-13, 2022
https://doi.org/10.1016/j.neuroscience.2022.10.012

日本大学歯学部薬理学講座との共同研究で、水道周囲灰白質の腹外側にあるニューロンに対するアセチルコリンを介した修飾機構に関する研究成果です。
この研究の詳細は日本大学歯学部薬理学講座の小林真之先生にお問い合わせください。

論文発表

(2)Kitano K, Yamashita A, Sugimura T, Okayasu T, Sakagami M, Osaki D, Kitahara T*, Saito Y* (2022)

Behavioral and Immunohistochemical Evidence for Suppressive Effects of Goshajinkigan on Salicylate-Induced Tinnitus in Rats.
Brain Sciences 2022 Apr 30; 12 (5): 587.
https://doi.org/10.3390/brainsci12050587

牛車腎気丸 (GJG) は耳鳴の症状緩和に処方される漢方薬の一つであるが、その作用について客観的な知見は得られていなかった。
そこで我々は、サリチル酸投与による耳鳴のラットモデルを用いて、条件付けによる耳鳴行動や聴覚関連領域でのc-Fos発現をコントロール群とGJG 投与群において比較した。
その結果、GJG (1.0g/kg)投与群はコントロール群と比較して耳鳴行動が有意に抑制された。
また、サリチル酸投与によるc-Fos発現細胞数の増加は、一次聴覚野、二次聴覚野背側、背側蝸牛神経核、下丘中心核において抑制された。
以上の結果はGJGの耳鳴に対する客観的な有効性を示すのもで、GJG投与により耳鳴症状が緩和される根拠となりうる。

(1)Furuta T, Nakagawa I, Yokoyama S, Morisaki Y, Saito Y, Nakase H (2022)

Melatonin-induced postconditioning suppresses NMDA receptor through opening of the mitochondrial permeability transition pore via melatonin receptor in mouse neurons. International Journal of Molecular Sciences 2022, 23(7), 3822
https://doi.org/10.3390/ijms23073822

概日リズムを調節する内在性ホルモンであるメラトニンはミトコンドリアのメラトニン受容体を介して神経保護作用がある。
この作用と虚血再灌流の後に間欠的に虚血負荷を行うことで虚血耐性が得られる現象(PostC)との関係を調べるため、マウスの海馬スライス標本を用いて自発性シナプス後電流(sEPSCs)や細胞内カルシウム濃度([Ca2+]i)の変化などを調べた。
その結果、メラトニンによって虚血再灌流後のsEPSCsの頻度上昇を抑制し、細胞死を生じるニューロン数を減少した。
さらに、NMDA型グルタミン酸受容体を介する電流が抑制されることで、虚血再灌流後の[Ca2+]iの増加が抑制された。
これらの結果から、メラトニン投与は虚血再灌流障害に対する神経保護の誘導作用があることが示唆された。
この研究の詳細は、本学脳外科学講座の中川先生にお問い合わせください。

学会発表

Ikehara M, Yamamuro K, Okamura K, Noriyama Y, Endo N, Sugimura T, Nishi M, Saito Y, Makinodan M

Metformin improves Autism-relevant behaviors and excitatory/inhibitory imbalance in the medial prefrontal cortex in BTBR T+tf/J mice.
第45回日本神経科学大会、第65回日本神経化学会大会、第32回神経回路学会大会、沖縄、2022年6月30日~7月3日

池原実伸、山室和彦、岡村和哉、法山勇樹、遠藤のぞみ、杉村岳俊、西真弓、齋藤康彦、牧之段学
BTBR マウスの自閉症関連行動と前頭前野神経回路の障害
第99回日本生理学会大会、宮城 2022年3月16~18日

2021年

論文発表

(3)Hirose K, Nakaya Y, Kitano K, Saito Y, Kaneko R, Yanagawa Y, Yamamoto K, Shirakawa T, Kobayashi M

Differential regulation of medium spiny and cholinergic neurons in the nucleus accumbens core by the insular and medial prefrontal cortices in the rat.
Pflügers Archiv - European Journal of Physiology 473: 1911-1924
https://doi.org/10.1007/s00424-021-02634-y

日本大学歯学部薬理学講座との共同研究で、側坐核コリン作動性ニューロンへの投射パターンに関する研究成果です。
この研究の詳細は日本大学歯学部薬理学講座の小林真之先生にお問い合わせください。

(2)Toritsuka M, Yoshino H, Makinodan M, Ikawa D, Kiimoto S, Yamamuro K, Okamura K, Akamatsu W, Okada Y, Matsumoto T,
Hashimoto K, Ogawa Y, Saito Y, Watanabe K, Aoki C, Takada R, Fukami S, Hamano-Iwasa K, Kishimoto T.

Developmental dysregulation of excitatory-to-inhibitory GABA-polarity switch may underlie schizophrenia pathology: A monozygotic-twin discordant case analysis in human iPS cell-derived neurons.
Neurochemistry International 150, November 2021, 105179
https://doi.org/10.1016/j.neuint.2021.105179

統合失調症の病態生理を明らかにするため、一卵性双生児の統合失調症不一致症例由来のヒトiPS細胞を作製して、発達中の培養ニューロンの生理学的特性を調べた。 培養ニューロンにはグルタミン酸作動性やGABA作動性のニューロンが含まれ、自発的な興奮性シナプス後電流の発生頻度が、統合失調症患者由来培養ニューロンで健常同胞に比べて高かった。 さらに、このニューロンにおいて、カリウム-クロライド共輸送体の活性型の発現が低いことが明らかになった。 これらの結果から、発達中のニューロンにおける興奮―抑制バランスの崩れが統合失調症の発症に関与する可能性が示唆された。 この研究の詳細は、本学精神医学講座の鳥塚先生にお問い合わせください。

(1) Saito Y*, Sugimura T

Distinct purinergic receptor-mediated currents of rat oculomotor integrator neurons characterized by different firing patterns.
Journal of Neurophysiology Aug 25
https://doi.org/10.1152/jn.00209.2021

プリン作動性シグナル伝達は眼球運動を調節することが知られているが、このシグナル伝達が水平性(脳幹の舌下神経前位核(PHN)が関与する)と垂直性(カハール間質核(INC)が関与する)の視線制御にどのように関与するかはわかっていなかった。
我々はPHNやINCを含む脳スライス標本を作製し、ATPの局所投与によって生じる電流応答をホールセル記録によって調べた。
その結果、PHNのならずINCにおいてもの3種類の電流応答が観察され、PHNとINCともに速い内向き電流はP2X受容体、遅い外向き電流はA1受容体を介した応答であった。
しかし、遅い内向き電流は、PHNではP2Y受容体を介していたのに対し、INCではP2Y受容体の作動薬において電流応答は見られなかった。
さらに、この3種類の電流応答と発火パターンが異なるニューロン群との対応関係を調べたところ、PHNとINCでは分布が異なっていることが明らかになった。
これらの結果から、視線制御におけるプリン作動性神経調節は水平性と垂直性で部分的に異なることが示唆された。

学会発表

Ikehara M, Yamamuro K, Okamura K, Noriyama Y, Yamaguchi Y, Endo N, Sugiyama T, Nishi M, Saito Y, Makinodan M

Dysfunction of rule-shift learning and Excitatory/Inhibitory balance in the medial prefrontal cortex in the BTBR T+ Itpr3tf/J mouse model of autism spectrum disorder.
第64回日本神経化学会大会、京都、2021年9月30日~10月1日

Sugimura T, Saito Y*

Indirect connection from the rat interstitial nucleus of Cajal to the vestibulo-cerebellum revealed by trans-synaptic tracing.
第44回日本神経科学大会 神戸コンベンションセンター 7月29日発表

池原 実伸、山室 和彦、岡村 和哉、法山 勇樹、山口 泰成、遠藤 のぞみ、杉村 岳俊、牧之段 学、西 真弓、齋藤 康彦、岸本 年史
BTBRマウスにおけるルールシフト学習の障害と内側前頭前野における興奮性/抑制性シナプス伝達のバランスの上昇
第43回日本生物学的精神医学会、第51回日本神経精神薬理学会、京都、2021年7月14~16日

齋藤康彦

トランスジェニックラットにより同定された眼球運動系神経積分器ニューロンの特性
第14回ラットリサーチ研究会 オンライン 1月29日

2020年

論文発表

(5) Morisaki Y, Nakagawa I, Ogawa Y, Yokoyama S, Furuta T, Saito Y, Nakase H

Distinct proportions of cholinergic neurons in the rat prepositus hypoglossi nucleus according to their cerebellar projection targets.
Cellular and Molecular Neurobiology 07 Nov. 2020
https://link.springer.com/article/10.1007/s10571-020-00996-y

虚血再灌流の後に間欠的に虚血負荷を行うことで虚血耐性が得られる虚血ポストコンディショニング(Ischemic postcondi tioning, PostC)現象 は、虚血・再灌流障害を減じる神経保護効果があることが知られている。
この神経保護効果にはミトコンドリアKATPチャンネル (mito-KATP) とmitochondrial permeability transition pore (mPTP) の関与が示唆されているが、PostC処置によってこれらのチャネルがミトコンドリア内膜の脱分極を誘導しているのかは不明であった。
そこで、我々はマウスの海馬スライス標本を用いて錐体細胞からホールセル記録を行い、NMDA受容体電流を測定するとともに細胞内カルシウム濃度とミトコンドリア膜電位を測定した。
その結果、再灌流後、早期において、PostC処置とmito-KATP開口薬であるdiazoxideの投与は、NMDA受容体電流を抑制し、細胞内カルシウム濃度の上昇を抑制した。
さらにPostC処置とdiazoxideの投与は、ミトコンドリア膜電位の脱分極を促進させた。
これらの結果は、PostC処置がmPTPのコンダクタンスモードの変化を介してNMDA受容体電流を抑制し、細胞内カルシウムの流入を抑制することを示している。
本研究により、mito-KATP開口によるミトコンドリア膜電位の脱分極が、虚血再灌流障害に対するPostCの神経保護効果メカニズムにおいて重要な役割を演じることが示唆された。

(4)Sugimura T, Saito Y*.

Distinct proportions of cholinergic neurons in the rat prepositus hypoglossi nucleus according to their cerebellar projection targets.
J Comp Neurol. 2020 Sep 18.
doi: 10.1002/cne.25035. Epub ahead of print. PMID: 32949021.

小脳の機能はコリン作動性入力によって調節される。視線保持の制御に関与する脳幹の舌下神経前位核(PHN)は、小脳へのコリン作動性入力の主要なソースの一つとして知られている。
しかしながら、PHNの小脳投射ニューロンにおけるコリン作動性ニューロンの割合は定量的に調べられていない。
本研究では、コリン作動性ニューロンが蛍光標識されたChAT-tdTomatoラットを用いた逆行性トレーシングによって、4つの異なる小脳の領域(flocculus (FL), uvula and nodulus (UN), lobules III-V in the vermis (VM), hemispheric paramedian lobule and crus 2 (PC))に投射するPHNのニューロンを特定し、その投射におけるコリン作動性ニューロンの割合を比較した。
その結果、PHN-FL投射におけるコリン作動性ニューロンの割合は、その他3つの投射におけるそれらの割合よりも低かった。
また、PHN-UN, -VM, -PC投射におけるコリン作動性ニューロンの割合は、PHNの吻側-尾側の領域で異なった。
これらの結果から、PHN-小脳投射におけるコリン作動性ニューロンの割合は、小脳の投射エリアおよびPHNの吻側-尾側の領域に依存して異なることが示唆された。

(3)Nakagawa K, Yoshino H, Ogawa Y, Yamamuro K, Kimoto S, Noriyama Y, Makinodan M, Yamashita M, Saito Y, Kishimoto T

Juvenile Social Isolation Enhances the Activity of Inhibitory Neuronal Circuits in the Medial Prefrontal Cortex.
Frontiers in Cellular Neuroscience 2020, August 4, 14:241.
DOI: 10.3389/fncel.2020.00241

統合失調症の危険因子の一つとして母子感染が挙げられている。
これまでの研究により、母体の周産期感染モデルマウス( Polyriboinosinic-polyribocytidylic acid(poly I:C)処理マウス)では母体免疫が活性化され、その結果、その母体から産 まれた仔において、発達期の海馬CA1領域の組織学的な変化や成熟期でのプレパルス抑制などにみられる感覚運動ゲーティング 機構の障害がみられた。
しかし、母体免疫の活性化が仔の海馬ニューロンの活動にどのように影響するのかについて明らかではなかった。
本研究では、出生前poly I:C処理マウスと未処理マウスにおいて、発達期または成熟期の海馬CA1錐体細胞でのシナプス伝達を調べ、比較した。
その結果、poly I:C処理マウスでは、発達期、成熟期ともに錐体細胞における自発性興奮性シナプス電流の発生頻度が低下し、一方、自発性抑制性シナプス電流の発生頻度は増加した。
これらの結果から、母体免疫の活性 化により抑制性シナプス伝達が優位になり、海馬のネットワーク活性が低下することが原因で上記の変化や障害が生じていることが示唆された。

(2) Eura N, Matsui TK, Luginbühl J, Matsubayashi M, Nanaura H, Shiota T, Kinugawa K, Iguchi N, Kiriyama T, Zheng C, Kouno T, Lan YJ, Kongpracha P, Wiriyasermkul P, Sakaguchi YM, Nagata R, Komeda T, Morikawa N, Kitayoshi F, Jong M, Kobashigawa S, Nakanishi M, Hasegawa M, Saito Y, Shiromizu T, Nishimura Y, Kasai T, Takeda M, Kobayashi H, Inagaki Y, Tanaka Y, Makinodan M, Kishimoto T, Kuniyasu H, Nagamori S, Muotri AR, Shin JW, Sugie K, Mori E

Brainstem organoids from human pluripotent stem cells.
Frontiers in Neuroscience 2020 Jun 26; 14:538
DOI: 10.3389/fnins.2020.00538

松井らによって開発されたヒト脳幹オルガノイドに関する共同研究の成果である。
本講座は、脳幹オルガノイドに存在する細胞の電気生理学的解析を担当した。培養3か月目の脳幹オルガノイド内の細胞からホールセル記録を試みたが、ほとんどの細胞では静止電位が浅く、通電に対して活動電位の生成がみられなかった。
しかし、わずかな細胞においてマイナス40mV以下の静止電位と活動電位の連続発火が観察され、1例においては、発火頻度の低い活動電位とHCNチャネルの発現を思わせる時間依存的な過分極応答を示した。
このような電位応答から、このオルガノイドにはNa+、K+チャネルを発現する機能的なニューロンが存在しており、その中にはHCNチャネルの発現に代表されるドーパミン作動性ニューロンの性質を示すニューロンも存在することが明らかになった。
この研究の詳細については、本学の未来基礎医学講座の森英一朗先生にお問い合わせください。

(1) Yamamuro K, Yoshino H, Ogawa Y, Okamura K, Nishihata Y, Makinodan M, Saito Y, Kishimoto T

Juvenile Social Isolation Enhances the Activity of Inhibitory Neuronal Circuits in the Medial Prefrontal Cortex.
Frontiers in Cellular Neuroscience 2020, May 12; 14:105
DOI: 10.3389/fncel.2020.00105

ヒトにおいて小児期にネグレクトなどの虐待を含めた不適切な養育が、さまざまな脳領域の異常に基づき、生涯にわたり社会性が低下することが知られている。
我々はこれまでマウスを生後21日から35日まで隔離飼育すると、内側前頭前野の第V層に存在する錐体細胞のうち、hyperpolarization-activated cation currentを発現し皮質下に軸索を投射するPH cellにおいて、ニューロン活動の低下や興奮性シナプス伝達の低下、さらにはシナプス数が減少することを報告した。
そこで、今回、このモデルマウスにおいて介在ニューロンがどのように影響されるのかを調べた。
その結果、隔離飼育によってPH cellでのみ抑制性シナプスが増加しており、その上流にある介在ニューロンの一つであるFast spiking interneuronの機能が亢進していることが観察された。
これにより、この時期の社会的経験が内側前頭前野のmicro circuitの発達に重要であり、隔離飼育マウスでみられる社会性や認知機能障害の一因であることが示唆された。

2019年

論文発表

(3) Saito Y*, Sugimura T

Different activation mechanisms of excitatory networks in the rat oculomotor integrators for vertical and horizontal gaze holding.
eNeuro 7 January/February 2020
DOI: https://doi.org/10.1523/ENEURO.0364-19.2019

我々がものを見るときには対象物に視線を一定時間以上保持する必要がある。
脳幹の舌下神経前位核(PHN)とカハール間質核(INC)はそれぞれ水平性、垂直性の視線保持の制御に関与することが知られている。これまでの我々の研究により、視線保持の指令となる持続的な神経活動の生成には興奮性神経ネットワーク(Excitatory Neural Network, ENN)が必要であり、そのネットワークがPHNとINC共に存在することが明らかになった。しかし、ENNの活性化メカニズムはPHNとINCとの間で異なっている可能性も示唆された。
本研究では、脳幹スライス標本においてホールセル記録法による電気生理学的記録を行い、PHNとINCでENNの活性化メカニズムの違いを調べた。
ENNの活性化によって生じる持続的な興奮性シナプス電流応答に着目して、グルタミン酸受容体やイオンチャネルの阻害剤の効果を解析した結果、ENNの活性化には、PHNではカルシウム透過型AMPA受容体とカルシウム依存性非選択的陽イオンチャネル(Ican)の活性化が必要であり、INCではNMDA受容体の活性化が必要であるとの知見が得られた。
これらの結果から、水平性と垂直性の視線保持は異なるシナプス伝達機構により制御されていることが初めて明らかになった。
この論文は“注目論文”としてeNeuroのホームページで紹介されました(2020年1月31日)。

(2) Yokoyama S, Nakagawa I, Ogawa Y, Morisaki Y, Motoyama Y, Park Y-S, Saito Y, Nakase H

Ischemic postconditioning prevents surge of presynaptic glutamate release by activating mitochondrial ATP-dependent potassium channels in the mouse hippocampus PLoS One 14(4): e0215104, 2019

虚血再灌流の後に間欠的に虚血負荷を行うことで虚血耐性が得られるIschemic postconditioning (PostC) 現象の存在が知られており、その発現にミトコンドリア局在KATP (mito-KATP) channelの関与が報告されているが電気生理学的機序は十分に解明されていない。
本研究では海馬スライスモデルを用いてホールセルパッチクランプを行い、虚血再灌流負荷及びPostC処置後の各群のsEPSC頻度の推移を計測した。
その結果、虚血負荷及び虚血再灌流によりsEPSC 頻度は急激に増加するが、PostC処置を行うとsEPSC頻度は有意に抑制された。
またKATP channel 開口薬(diazoxide)投与によりsEPSC 頻度の増加が抑制され、mito-KATP channel阻害薬(5-HD)投与によりPostCによるsEPSC 頻度抑制効果が阻害された。またsEPSC累積頻度と虚血負荷後の死細胞数には有意な相関を認めた。
これらの結果から、PostC処置によりmito-KATP channelの開口を介してsEPSC頻度が抑制され神経保護効果をもたらすことが示唆された。

(1) Nishitani A, Kunisawa N, Sugimura T, Sato K, Yoshida Y, Suzuki T, Sakuma T, Yamamoto T, Asano M, Saito Y, Ohno Y, and Kuramoto T.

Loss of HCN1 subunits causes absence seizures in rats.
Brain Research 1706: 209-217, 2019

京都大学大学院医学系研究科附属動物実験施設との共同研究の成果であり、本講座はスライスパッチクランプ法を用いた電気生理学的解析を担当した。
時間依存的内向き整流性を示すHCN1チャネルをノックアウトしたラットでは欠神発作が頻繁に観察される。我々は、このノックアウトラットにおいてHCN1チャネルを介する電流や電位の応答が見られないことを確認した。
さらに、ノックアウトラットはwild typeラットと比べ静止電位が過分極であることや膜抵抗が高くなっていることを明らかにした。詳細は庫本高志先生(現 東京農業大学 動物栄養学研究室)にお問い合わせください。

学会発表

Sugimura T, Saito Y

The neural connections between the oculomotor neural integrators and the vestibulo-cerebellum.
Neuroscience 2019 2019年10月19-23日、Chicago 10月22日発表

Okamura K, Kimoto S, Yoshino H, Nishihata Y, Yamaguchi Y, Yamamuro K, Ikehara M, Makinodan M, Ogawa Y, Saito Y, Kishimoto T

Social isolation affects inhibitory neural circuits of Prefrontal Cortex during development.
Neuroscience 2019 2019年10月19-23日、Chicago 10月20日発表

Nishihata Y, Yoshino H, Ogawa Y, Sugimura T, Okamura K, Yamamuro K, Makinodan M, Toritsuka M, Komori T, Kaneda T, Saito Y, Kishimoto T

Social Isolation during development Reduces Excitability of a Subtype of Pyramidal Cell in Mouse Prefrontal Cortex which projects to Subcortical areas.
Neuroscience 2019 2019年10月19-23日、Chicago 10月21日発表

Sugimura T, Saito Y

The neural connections between the oculomotor neural integrators and the vestibulo-cerebellum.
第42回日本神経科学大会 朱鷺メッセ(新潟市) 7月25日発表

Sugimura T, Saito Y

The neural connections between the oculomotor neural integrators and the vestibulo-cerebellum.
FAOPS 2019 神戸コンベンションセンター 3月29日発表

Saito Y

NMDA receptor-mediated activation of excitatory networks in rat interstitial nucleus of Cajal.
FAOPS 2019 神戸コンベンションセンター 3月29日発表

Morisaki Y, Nakagawa I, Yokoyama S, Ogawa Y, Saito Y, Nakase H

Ischemic postconditioning induced by opening of mK+ ATP channels and NMDAR silencing by mPTP opening.
FAOPS 2019 神戸コンベンションセンター 3月29日発表

Toyoda F, Nakada T, Matsuda K, Nakakura T, Hasunuma I, Yamamoto K, Kikuyama S

Responsiveness of vomeronasal cells to a male-attractant, imorin in the newt, Cynops pyrrhogaster.
FAOPS 2019 神戸コンベンションセンター 3月30日発表

Yoshino H, Yamamuro K, Ogawa Y, Makinodan M, Saito Y, Kishimoto T

Social isolation during developmental critical window affects inhibitory neuronal circuitsin mPFC.
FAOPS 2019 神戸コンベンションセンター 3月30日発表

Matsui TK, Eura N, Nanaura H, Shiota T, Saito Y, Sugie K, Mori E

Induction of brain organoids mimicking human midbrain-specific structure with electrophysiological activity.
FAOPS 2019 神戸コンベンションセンター 3月30日発表

2018年

論文発表

(2) Sugioka M and Saito Y*

Purinergic modulation of neuronal activity in the rat prepositus hypoglossi nucleus.
European Journal of Neuroscience 48: 3354-3366, 2018.

視線制御に関与する舌下神経前位核(PHN)のニューロンにはATPなどを伝達物質とするプリン受容体が発現することが知られていたが、その機能については不明であった。
本研究では、実際にATPがPHNニューロンの機能に関与しているのかについて、スライスパッチクランプ法を用いて調べた。自発発火しているPHNニューロンにATPを投与したところ、発火頻度の上昇あるいは低下が観察された。
さらに、電位固定下でATPを局所投与したところ、速い内向き電流、遅い内向き電流、遅い外向き電流の3種類の電流応答が記録された。
ATP受容体サブタイプの作動薬や拮抗薬の投与により、速い内向き電流はP2X受容体、遅い内向き電流はP2Y受容体が関与することが明らかになった。
さらに、遅い外向き電流についてはATPから変換されたアデノシンが関与していることが明らかになった。
これらの結果により、PHNニューロンは様々なプリン受容体を発現し、それらの活性化によってPHNのニューロン活動を調整していることが示唆された。

(1) Zhang Y, Yanagawa Y, and Saito Y*.

Firing responses mediated via distinct nicotinic acetylcholine receptor subtypes in rat prepositus hypoglossi nuclei neurons.
Journal of Neurophysiology 120: 1525-1533, 2018.

我々はこれまで、視線制御に関与する舌下神経前位核(PHN)ではニコチン性アセチルコリン(nACh)受容体を介し時間経過が異なる電流応答がみられ、これには発現するnACh受容体のサブタイプが異なることを明らかにした(Zhang et al. 2016)。
本研究では、これらの電流応答がPHNニューロン活動にどのように関与するのかについて調べた。
その結果、時間経過の速い電流応答(α7サブタイプ)は単発もしくは数発の活動電位の生成に関与したのに対し、時間経過の遅い電流応答(non-α7サブタイプ)は持続時間の長い連続発火に関与していた。
これらの結果から、PHNニューロンにおいて、nACh受容体の異なるサブタイプが発現することによりAChに対する異なる発火応答が引き起こされることが示唆された。

学会発表

Sugimura T, Saito Y

Differential connectivity to vestibulo-cerebellum between horizontal and vertical oculomotor neural integrators.
第41回日本神経科学大会 神戸コンベンションセンター 7月26日発表

2017年

論文発表

(4) Saito Y*, Sugimura T, Yanagawa Y

Comparisons of neuronal and excitatory network properties between the rat brainstem nuclei that participate in vertical and horizontal gaze holding.
eNeuro 4 September 2017; DOI: https://doi.org/10.1523/ENEURO.0180-17.2017.

視線制御は水平性と垂直性で異なる脳領域で行われており、水平性は舌下神経前位核(PHN)が、垂直性はカハール間質核(INC)が関与することが知られている。
しかし、それらの神経核のニューロン特性や神経回路特性に違いがあるかについてはわかっていなかった。
そこで本研究では、脳幹スライス標本においてホールセル記録法による電気生理学的記録を行い、PHNとINCのニューロン特性や神経回路特性に違いがあるかを調べた。
その結果、電気生理学的特徴によって分けられたニューロンの種類についてはPHNとINCではほぼ同じであったが、ニューロン分布に違いがみられた。
また、PHNとINCともに持続的な神経活動を生成する興奮性神経回路が存在するが、PHNでみられたカルシウム透過型AMPA受容体の関与はINCにおいては強く見られなかった。
以上の結果により、視線制御という点ではPHNもINCも同じ機能を示すが、それぞれの機能は異なるメカニズムによって実現されていることが示唆された。

(3) Saito Y* and Yanagawa Y.

Distinct response properties of rat prepositus hypoglossi nucleus neurons classified on the basis of firing patterns.
Neuroscience Research 121: 18-28, 2017.

視線制御に関与する舌下神経前位核(PHN)には活動電位の発生パターン(発火パターン)の異なるニューロン群が存在することが知られている。
しかし、これらのニューロンは様々な刺激に対し異なる応答を示すのか、すなわち機能的に異なるニューロン群なのかはわかっていなかった。
そこで本研究では、PHNニューロンにパルス波、ランプ波、三角波、サイン波などの様々な電流刺激を与えたときの電位応答を調べ、個々のニューロンの反応特性と発火パターンとの関係について調べた。
その結果、発火パターンが異なるニューロン間では刺激の種類に応じて反応特性が異なることが明らかになった。
特に、低い発火頻度を示すタイプや振動性の発火を示すタイプは他のタイプに比べ反応特性が大きく異なっていた。
以上の結果は、発火パターンによって分類されたPHNニューロンは機能的に異なるニューロン群であることが示唆された。

(2) Yamamuro K, Yoshino H, Ogawa Y, Makinodan M, Toritsuka M, Yamashita M, Corfas G, Kishimoto T.

Social Isolation During the Critical Period Reduces Synaptic and Intrinsic Excitability of a Subtype of Pyramidal Cell in Mouse Prefrontal Cortex.
Cereb Cortex. 2017 Feb 3:1-13

ヒトにおいて児童・思春期の社会的経験は前頭葉の発達に非常に重要である。
我々はこれまでマウスを生後21日から35日まで隔離飼育すると前頭葉機能低下・内側前頭前野深層の低髄鞘化を生じることを見出している。
そこで今回、内側前頭前野の第五層に存在するhyperpolarization-activated cation currentを発現する錐体細胞(PH cell)の電気活動が隔離飼育によってどのように影響されるかを調べた。
その結果、隔離飼育によってPH cellでのみニューロン活動の低下や興奮性シナプス伝達の低下、さらにはシナプス数の減少が観察された。
これにより、この時期の社会的経験が内側前頭前野の錐体細胞の機能的発達に重要であることが示唆された。
また、PH cellは皮質下に軸索を投射していることから、例えば前頭前野-視床間の機能的連絡の低下が前頭葉機能の低下につながる可能性が示唆された。

(1) Nakada T*, Toyoda F*, Matsuda K*, Nakakura T, Hasunuma I, Yamamoto K, Onoue S, Yokosuka M, Kikuyama S.

*These authors contributed equally to this work.
Imorin: a sexual attractiveness pheromone in female red-bellied newts (Cynops pyrrhogaster).
Scientific Reports 7:41334, 2017

雄イモリが雌に対してプロポーズをする前に雌が雄を惹きつけるフェロモンを初めて示した。
そのフェロモンはアミノ酸3残基でできたペプチドで、卵管の繊毛細胞でつくられて水中に放出され、雄に受け取られる。
このフェロモンは雌がつくるペプチド性のフェロモンという点において脊椎動物で初めてのものである。これをアイモリン(imorin)*と名付けた。
雄は求愛のために雌を惹き付けておくのにソデフリンというフェロモンが必要であることが知られている。
したがって、雌のアイモリンと雄のソデフリンによる化学信号が順序だって働くことにより生殖を効率よく成功に導くと考えられる。
*古語でイモ(妹)は「恋人・妻」をさす。先頭にアを付したのは、英名にするとiがアイと発音されるため。

学会発表

Sugioka M, Saito Y

ATP-induced current responses in the rat prepositus hypogrossi nucleus neurons.
第40回日本神経科学大会 幕張メッセ 7月22日発表

Saito Y, Yanagawa Y

Neuronal and excitatory network properties of the rat brainstem nucleus that participate in the vertical gaze holding.
第40回日本神経科学大会 幕張メッセ 7月22日発表

Sugimura T, Kim R, Bito H, Yoshimura Y, Komatsu Y

Monocular deprivation-induced changes in excitatory synaptic transmission in layer 2/3 pyramidal neurons of rat visual cortex.
第40回日本神経科学大会 幕張メッセ 7月22日発表

2016年

論文発表

(2) Takahashi H, Ogawa Y, Yoshihara S, Asahina R, Kinoshita M, Kitano T, Kitsuki M, Tatsumi K, Okuda M, Tatsumi K, Wanaka A, Hirai H, Stern PL, Tsuboi A.

A Subtype of olfactory bulb interneurons is required for odor detection and discrimination behaviors.
The Journal of Neuroscience 36: 8210-8227, 2016

我々はこれまでに、嗅球顆粒細胞で嗅覚体験に依存して発現する因子として、1回膜貫通型糖タンパク質5T4を見出した。
5T4を発現する顆粒細胞(5T4 GCs)は介在ニューロンのサブタイプの一つで、5T4はその樹状突起の分枝を制御している。
本研究では、嗅球スライスを用いた電気生理学的実験および行動解析を行い、5T4の機能的役割を調べた。
光遺伝学的刺激により5T4 GCを興奮させると、僧帽細胞(MC)と外房飾細胞(ETC)にGABA作動性の後シナプス電流応答が誘発され、5T4 GCがETCとMCとに対して抑制性のシナプス結合を持つことがわかった。
5T4欠損マウスのETCでは、GCからの抑制性シナプスが野生型マウスよりも減少していた。
さらに5T4欠損マウスでは、5T4 GCへの興奮性シナプスが減少していた。
嗅覚行動テストでは、5T4欠損マウスは野生型マウスよりもにおい検知閾値が高かった。
また、におい弁別学習においても障害が見られた。
これらの結果は、5T4の欠如が5T4 GCからETCへの抑制性入力および5T4 GCへの興奮性入力を減弱させることにより、嗅覚行動の障害をもたらしたことを示しており、5T4 GCが嗅覚検知や嗅覚弁別に必須の役割を果たしていることを示唆している.

(1) Zhang Y, Yanagawa Y, Saito Y*.

Nicotinic acetylcholine receptor-mediated responses in medial vestibular and prepositus hypoglossi nuclei neurons showing distinct neurotransmitter phenotypes.
Journal of Neurophysiology 115: 2649-2657, 2016

これまでの我々の研究において、視線制御に関与する舌下神経前位核(PHN)ではニコチン性アセチルコリン(nACh)受容体が優先的に発現していることを明らかにした(Zhang et al. 2014)。
そこで本研究では、nACh受容体の発現様式とニューロンの種類との関係について調べた。
その結果、nAChに対する応答は、時間経過の速いタイプ(Fタイプ)、遅いタイプ(Sタイプ)、両方の性質を持つタイプ(FSタイプ)の3種類あり、グルタミン酸作動性ニューロンではSタイプが、抑制性ニューロンではFタイプが主に観察された。
薬理学的解析によりFタイプとSタイプはそれぞれα7とnon-α7(α4β2)サブユニットの発現によって生じていることが明らかになった。
これらの知見により、PHNにおいて発現するnACh受容体のサブタイプがニューロンの種類によって異なっていることが初めて明らかにされ、PHNでのAChによる修飾機構の解明がより進展することが期待される。

著書

豊田ふみよ・関隆晴(2016)

「細胞レベルで測る個体の調節」
渥美ら編「自然科学のためのはかる百科」第3章第8項:丸善出版
求:p.384-393.

豊田ふみよ 「両生類の求愛・性行動とホルモン」、日本比較内分泌学会編「ホルモンから見た生命現象と進化」シリーズIV「求愛・性行動と脳の性分化」第3章 : 裳華房出版:p.33-52.

学会発表

豊田 ふみよ

アカハライモリ雄誘引物質に対する鋤鼻上皮細胞の感受性の性およびホルモン依存症
第41回日本比較内分泌学会大会およびシンポジウム 相模原市 12月10日

Toyoda F, Nakada T, Haraguchi S, Yamamoto K, Tsutsui K, Kikuyama S.

Abdominal gland-derived steroids in the newt, Cynops pyrrhogaster may act as pheromones.
第39回日本神経科学大会 横浜 7月23日

Sugioka M, Saito Y

Modulation of neuronal activity via ATP in rat prepositus hypogrossi nucleus.
第39回日本神経科学大会 横浜 7月21日

Takahashi H, Yoshihara S, Ogawa Y, Asahina R, Kinoshita M, Kitano T, Tsuboi A.

A specific subtype of olfactory bulb interneurons is necessary for odor-detection and discrimination behaviors.
第39回日本神経科学大会 横浜 7月21日

Sugioka M, Saito Y.

Purinergic modulation of neuronal activity in the prepositus hypogrossi nucleus.
第93回日本生理学会大会 札幌 3月22日 

シンポジウム発表

豊田 ふみよ

両生類の求愛・性行動とホルモン
第41回日本比較内分泌学会大会およびシンポジウム 相模原市 12月10日

2015年

論文発表

(2) Toyoda F, Hasunuma I, Nakada T, Haraguchi S, Tsutsui K, Kikuyama S.

Possible hormonal interaction for eliciting courtship behavior in the male newt, Cynops pyrrhogaster General and Comparative Endocrinology 224: 96-103, 2015

両生類の生殖行動は、他の脊椎動物と同様に複数のホルモン物質によりコントロールされている。
われわれはアカハライモリの雄が雌に対して行う求愛行動はプロラクチン(PRL)、アルギニンバソトシン(AVT) 、雄性ホルモンおよび7α-ヒドロキシプレグネノロンが脳に作用することにより引き起こされることを明らかにしてきた。
そこで、行動発現におけるこれらのホルモンの相互作用を明らかにするために、それぞれの物質の作用を阻害した場合に他の物質でそれを補えるか否かを調べた。
その結果、PRLとAVTは7α-ヒドロキシプレグネノロンニューロンの作用を亢進すること、PRLと雄性ホルモンはAVT系を活性化して行動を引き起こすこと、7α-ヒドロキシプレグネノロンは求愛行動の発現率を促進するがAVTは求愛行動の頻度を促進するなど作用に違いがあること、がわかった。

(1) Saito Y*, Zhang Y, Yanagawa Y.

Electrophysiological and morphological properties of neurons in the prepositus hypoglossi nucleus that express both ChAT and VGAT in a double-transgenic rat model.
European Journal of Neuroscience 41: 1036-1048, 2015

視線制御に関与する舌下神経前位核(PHN)ではアセチルコリンとGABAまたはグリシンを共に持つニューロンの存在は知られていたが、それらがどのような特徴を持つのかは不明であった。
本研究では、コリン作動性ニューロンがtdTomatoという赤色蛍光を発現するトランスジェニック(TG)ラットと抑制性ニューロンがVenusという黄緑色蛍光を発現するTGラットを交配させて2重TGラットを作製し、PHNにおいてtdTomatoとVenusを共に発現するニューロン(D+ ニューロン)の特性を調べた。
その結果、主なD+ ニューロンはスパイクの発生が遅れる発火パターンを示し、下オリーブ核への投射やPHN内のネットワークに関与していることが明らかになった。

総説

豊田 ふみよ

豊田 ふみよ 「日本味と匂学会誌」 Vol.22 No.2 PP.125-130 2015年8月
「イモリ性行動発現とフェロモン作用の内分泌調節」

学会発表

Saito Y , Yanagawa Y.

Different firing response properties of the rat prepositus hypoglossi nucleus neurons that exhibit distinct firing patterns.
第38回日本神経科学大会 神戸 7月28日

Toyoda F, Hasunuma I, Nakada T, Haraguchi S, Tsutsui K, Kikuyama S.

Possible hormonal interaction for eliciting courtship behavior in the malenewt, Cynops pyrrhogaster.
第38回日本神経科学大会 神戸 7月28日

Takahashi H, Yoshihara S, Ogawa Y, Kinishita M, Asahina R, Tsuboi A.

A specific subset of newborn granule cells in the olfactory bulb are required for maintaining odor-detection thresholds and acquiring two-odor discrimination tasks.
第38回日本神経科学大会 神戸 7月29日

Yoshino H, Yamamuro K, Ogawa Y, Okamura K, Saito Y.

Social ioslation during the critical period and excitatory neuronal activity in mouse medial prefrontal cortex.
第38回日本神経科学大会  神戸 7月29日

Yamamuro K, Yoshino H, Ogawa Y, Okamura K, Kishimoto T.

Social isolation during critical period causes reduced excitatory inputs onto mouse medial prefrontal cortex neurons in adulthood.
第92回日本生理学会大会 神戸 3月21日

Takahashi H, Yoshihara S, Ogawa Y, Asahina R, Tamada Y, Tsuboi A.

5T4 oncofetal trophoblast glycoprotein regulates the sensory experience-dependent dendritic development in newborn olfactory bulb interneurons.
第92回日本生理学会大会 神戸 3月23日

2014年までの業績